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2019/01/27

マイヅルヨコバイタケ追培養

昨年のことだが、マイヅルヨコバイタケの追培養に成功した。
まず採取当初。
宿主はツマグロオオヨコバイ。冬虫夏草を続けているとまずこの段階で面白い。最終的にマイヅルヨコバイタケになるまでこれがマイヅルヨコバイタケだと信じることができなかった。虫体を覆い始めている菌糸がまるでカビだ。旧トルビエラを見てみると、もっと密で頑丈な雰囲気の菌糸が虫体を覆う。そんな常識があったからだ。知らないで野外で出会ったら間違いなくスルーしてしまう。


1週間後。かなりのスピードで虫体を菌糸が覆い、ほぼ虫体が見えなくなってしまった。ここでやはり冬虫夏草だったと思えた。ポイントは菌糸が一部黄色くなっている周辺。旧トルビエラでもそうだが、子嚢果が形成される場所は菌糸が収束し始め、それにより色が他の場所に比べて濃くなり始める。追培養をやっていてこれが見れると俄然ワクワクするのだ。


2週間後。予想通り色が変わった部分に子嚢果ができ始めている。改めて見てもこの全体的に菌糸がフワフワした状態で子嚢果が形成されるのは不思議だ。この段階で検鏡してみたが、未熟な胞子が確認できるのみだった。



3週間後。2週間の段階より子嚢果の色が濃くなっているのがわかる。この段階で始めて先人の記録通りの検鏡結果が得られた。


今回の追培養は一般的な温度に比べて高い温度、かつ比較的低い湿度で環境を設定して成功している。もう1個体を低い温度で追培養しているが、成熟まで至っていない。温度を高くしたのは夏場に成熟するだろう事を予想して設定しており、湿度は発生環境で日中の湿度を計測し設定している。マイヅルヨコバイタケはどうやら冬虫夏草としては湿度が低く、夏場に成熟する冬虫夏草だと思われる。このように追培養は冬虫夏草の生活環を予想させてくれる。また、この温度等のデータって培養する際にも使えるんじゃないだろうか。すごく面白い。
実験器具は企業秘密(笑)にしておきたいが、正直僕は追培養に苔は使っていない。冬虫夏草の追培養で最も重要なのは気温と湿度。特に湿度の管理は非常に難しい。今までの試行錯誤の大部分は湿度管理だった。その湿度管理を苔でするのはほぼ不可能だと思う。こんなことを言うと怒られそうだが。あと水が直接触れない工夫が必要だと思う。
僕は野外で成熟個体を見るだけでは得られない変化(菌糸の収束等)や生活環が見えることが面白いので追培養を続けているが、基本的には成熟を野外で待つのが原則であると思う。失敗したら同定すらできなくなってしまう。これも覚えておいてほしい。
とはいえ、ぜひ皆さん挑戦してみてほしい。本当に面白いので。
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2018/12/23

発見(標本)に対する価値とは

広告が出ちゃってます。くそー、最近本当に時間がない。三連休でやっとこさ更新できました。
先日冬虫夏草の話をしていたらこんな話があった。「最近県内の〇〇という場所でサナギタケを見つけたんですよ。一応持ち帰ったんだけど、小さくてしかもサナギタケみたいな一般種でしょ?標本作ったはいいけど、放置してて梅雨でカビちゃいました。」とても残念に思う。なぜなら完全に県内新産地だったからだ。
例えばこのオサムシタケを見てどう思うだろうか。

幼虫生で迫力が無いし、なんの変哲も無いオサムシタケ。しかし僕はこの標本をとても大切にしている。というのもこのオサムシタケは富士山のかなり標高が高い場所で見つかっているのだ。冬虫夏草を探す人は多いけど、いったい何人富士山でオサムシタケを見たことがあるだろうか。
また、サナギタケで言えば汚い写真で申し訳無いが、これはどうだろう。

小さくて価値が無いだろうか。仕事である山に登った際に見つけたもので、忙しく写真はまともに残ってないが、標本は大切に保管している。というのも、このサナギタケは2,000m弱の標高で大量に発生していたのだ。一体何人が2,000mクラスの標高でサナギタケを見たことがあるだろうか。
何が言いたいかというと、発見した時のデータと標本の価値は本人にかかっていて、その価値見出すのにも経験と知識がいるんだということ。多くの人は全国的に珍しい種類を発見すると誇る。それも一理あって、その際のデータで全国的に見つかり出す例もある。だけどそればかりじゃ無くて、一般種だって新しく見つかった場所でデータを取って、標本を残して、今までの全国的なデータと照らし合わせれば、大きな価値を持つ事だってある。だから標本にはデータがセットで無くちゃならなくて、そうして初めて価値が出る。そうしなきゃ文字通り腐ってしまう。自分で自分の発見に価値を見つける。それって凄く面白いことだと思うんだけど。
あまりに残念だったんで、説教くさくていかん。
2018/11/04

冬虫夏草を上手く掘る

「冬虫夏草を切ってしまうのが怖い」こんな話をよく聞く。僕が同行すると掘るのを任されることが多いが、実のところ僕もそれほど上手くはない。というわけで、他の人に上手くなって僕を助けて欲しいので掘り方を掲載していこうと思う。
今回出演してもらうのは春の訪れを告げる冬虫夏草、みんな大好きオオセミタケさん。
オオセミタケを見つけた!

さて掘ろう!!しかしちょっと待って欲しい。初めて出会う冬虫夏草に今の段階で掘るのは真っ暗闇で物を探すようなもので、とても無謀。まずは図鑑なりネットなりで目の前の冬虫夏草がなんなのか目処を立て、地下がどのように伸びていて、宿主がなんなのかを想像する事が重要。大丈夫。そんな時のために冬虫夏草生態図鑑なり冬虫夏草ハンドブックがある。それらで写真を見てみると良いと思う。
こんな姿を想像する。多少曲がっている事はありそうだけど、基本的には真っ直ぐに地下まで続いていそうだ。また、周辺にはたくさんの根が張っていて邪魔そうだ。根切りバサミがあると便利そう。

ここで初めて少し掘ってみる。掘る時はピンセットと小さなスプーンが便利。特に、慎重に掘らないとならない柄が細いものは小石一つ一つを取り除く必要があり、ピンセットが道具の中心になる。掘るというより冬虫夏草の地下部周りの土や石を削って行きつつ根っこを切って柄を発掘していく感じ。そして、オオセミタケはまだマシだが、掘りが深くなると手元が想像以上に暗い。ライトがあったほうが便利だと思う。スタイルは終始こんな感じ。この時にヒルがいたりすると地獄だが、、、。

柄の周りを削っていくと何か見えてきた。この冬虫夏草はオオセミタケ。という事は宿主はセミ。この何かがセミの幼虫である事は想像できる。宿主が出てきたという事は宿主よりも下に冬虫夏草は無いはず。慎重に宿主の周りを掘り進めていく。

だいぶ掘れてきた。ここまでくればだいぶ安心だが、なるべく宿主は傷つけないようにしたい。例えばセミの幼虫の脚は少し土が引っかかれば簡単に折れて土に紛れてしまう。冬虫夏草の同定には宿主が重要になる事があるが、宿主を特徴づける部位が損傷してしまえば貴重な情報が失われてしまう事もあるのだ。今回の場合はなるべく宿主の体制を明らかにするため、セミの背中側から掘っている。

やっと掘ることができた。今回の場合はしっかり断面像が見えるようにこのように掘ったが、子実体は掘れたそばから土からは外したほうが良い。土に固定されたままだとピンセットが柄に引っかかった拍子に切れてしまうことがある。

掘り終わった冬虫夏草はタッパーに苔を濡らして敷き詰め、その中に入れておくと良い。写真のような状態でさらに濡らした苔で蓋をして、タッパーの蓋を閉める。こうする事によって、移動中に冬虫夏草が損傷することが少なく、乾いてしまうこともない。たまにカラカラに乾いた冬虫夏草の同定を頼まれるが、非常に難しい。乾いてしまった冬虫夏草は収縮して形や大きさが全然変わってしまうし、胞子が出なくなってしまっていることが多い。こういったことも防げる。

書き忘れていることがある気もするが、とりあえずこんな感じだろうか。最後に諦めが肝心な場面もある事も覚えておきたい。例えば、大きな木の根を回り込むように柄が伸びている場合。物理的に掘るのが無理であることが多いので、素直に諦めて木の根の下方で柄や宿主を探す方がいい場合もある。木の根の下で柄どうなっているかわからない状態で切ってしまうとそれこそ一巻の終わりだからだ。この辺りは失敗して個々が感じることなのでそれぞれではあると思うけど。
さぁ、これで皆さんも来年には冬虫夏草掘り取りマスターですね!
2018/10/07

冬虫夏草の消失について考える

ハスノミクモタケという冬虫夏草がある。大きさ2cm弱の非常に小さな冬虫夏草だが、その中にこんなに細かな蓮の実のような子実体が出ているのが非常に面白い。

この冬虫夏草は県内某所ではかつて無作為に葉っぱをめくれば必ず見つかるほど豊富であった。しかし、現在は1シーズンに3個体見つかれば良い方である。もっと正確にいうとアナモルフばかりになってしまったという方が正確だけど。原因は公園整備に伴う間伐で、環境が変わってしまったからだろうと思う。
僕は普段採取した冬虫夏草に対して発生環境の温度と湿度を記録している。このデータをもとに同じ生育状態のハスノミクモタケを追培養してみた。結果は写真の通り。以前ハスノミクモタケの追培養を成功させた温度条件かつ、近年の湿度条件で追培養すると、予想通りアナモルフが発生した。

あくまでも屋内での条件なので、証明とまではいかないものの少なくともハスノミクモタケの発生条件に湿度が大きく関わっていることは間違いないのではないだろうか。ここでは明言はしないが、大体の湿度の境目も分かった。
自分が毎年楽しみにしている種類が消失していくのは確かに悲しい。でも発生しなくなっている事実は、逆に冬虫夏草がどんな環境を好むのかを教えてくれている。そう考えると探求の幅は広がるし、誰かにこの小さな冬虫夏草が消えゆく事実を伝えるのにも便利だと思う。
どんな冬虫夏草でも永遠に出続けるなんて事は無いんだし、冬虫夏草が消えゆくことも楽しく考えられそうじゃないだろうか。そうですね。それは言い過ぎました。
2018/09/08

同定はとても難しい。

ウスキタンポセミタケという冬虫夏草がある。名前の通りセミに発生する冬虫夏草で、色はレモンイエローでとても美しい。
こんな感じ。

美しいのは良いんだけど本種は掘り取りが結構難しい。ウスキタンポセミタケの基部を見てもらいたいが、糸のような柄の太さである。
これがこんな感じで埋まっていて、さらに粘土質のだったりすると最悪。

ところで同じウスキタンポセミタケでもこんな個体も存在する。
柄の太さが全然違う。ただ両者は宿主のセミの幼虫が別種で、この個体の方が大きい。ということは栄養条件が全然違うという前提がある。とはいえ、その場合は普通に考えれば結実部が大きくなる、あるいは数を多くして胞子の量を多くするのではないだろうか。

今度は結実部を比較してみる。
子嚢殻の突出具合が細い方の方が顕著に見える。子嚢果の成長具合の差かと思って顕微鏡観察するも胞子の大きさはほぼ同じ、子嚢殻の大きさは細い方の方が大きく感じられた。(両個体とも胞子、子嚢殻ともに十数個平均)
柄が細い方。

柄が太い方。

今回の話は両者が別種だろうという話をしたいわけではない。ただこういう状況になってつくづく思うのは、こうした「同じなんだろうけどどうだろう?」という状況になった場合にどういう基準で差があると判断すれば良いのかが今になってもよく分からないということだ。分子系統解析という話もあると思うが、形態観察は最低限のやらなければならないと思う。
同定作業をするときにこのような場合が一番辛い。本日顕微鏡を覗きながらそう思ったので記事にしてみた。